いつもの日常



いつもと変わらない日常。

いつもと同じ会話。

そんな何気ない退屈な日常が一番大切で幸せなことだと思った。



「おはよう、弦一郎」

「おはよう、蓮二」

毎朝同じ電車に乗り合わせる。

恋人同士になってもそれは変わらない。

弦一郎は普段から口数は多くないが、今日の弦一郎は少し様子が変だった。

「どうかしたのか、弦一郎?」

「ん、いや何でもないが・・・」

そういわれれば、それ以上のことは聞けず、そうか。と答えた。


その日は終始そんな様子で部活の時もそうだった。

部活が終わったあともそんな調子だったが、帰ろうとしたとき、

弦一郎は声をかけた。

その声に振り向くと弦一郎は険しい顔をさらに険しくしていた。

辺りには妙な緊張感も漂う。

何か嫌な予感がしたが、何も出来ずにいた。

「蓮二・・・すまない」

そう切り出した。

「どういうことだ?」

答えずらそうに弦一郎はうつむいている。

「・・・蓮二・・・俺はお前が好きだ」

いまさら、何を言っている?

そう思いながら、嫌な予感は胸の奥で膨らんでいく。

「だが・・・俺は彼女のことも好きになってしまった・・・・」

彼女?

その言葉に思考回路が停止していく。

頭が真っ白になる。

意識が落ちていく中、弦一郎のすまない。という謝る声がずっと響いていた。




RRRRRR

目覚まし時計が辺りを包む。

勢いよく飛び起き、目覚まし時計を消す。

辺りに静寂が包む。

額からへんな汗がにじむ。

夢だったのか。

安堵でホッとする。

あれが夢であるならば、今日は自分の誕生日のはずだ。

布団から起き上がり、カレンダーを確認する。

しかし、何故、誕生日の日にあんな悪夢を見るのか。

その悪夢を吐き出すように大きく溜息を吐いた。




夢と同じように電車に乗り、学校へ向かう。

同じ電車で弦一郎が乗り込む。

そして、挨拶を交わす。

夢どおりだ。

毎日の日常になっているから、当たり前なのだろうが、

悪夢が頭から離れることはない。

「どうかしたのか、蓮二?」

弦一郎が元気のないと思ったのか、心配そうに声をかけた。

「いや、少し悪夢を見てしまってな・・・」

「・・・そうか、ならば今日は普段よりも一緒にいよう」

弦一郎はそう笑みを浮かべて答えた。



その宣言どおり、弦一郎は気を遣ってくれたのか、

お昼にはいつも赤也がいるのだが、今日は何故か赤也が来ず、二人だけで過ごせた。

どうやら、事前に根回しをしたらしい。

弦一郎はそんなことは言わないが、どういう理由をつけたのか気になるところだが。

とにかく、今日は愛しい人と長く一緒にいられた。

部活が終わり、部室で帰り支度をしていたとき、弦一郎はガサガサと何かをしていた。

「蓮二、誕生日おめでとう」

「弦一郎、ありがとう」

そういって、プレゼントを受け取った。

「蓮二、いつも側にいてくれてありがとう、これからも一緒にいてくれるか?」

弦一郎は真剣な目を向けてそういった。

「弦一郎、俺の方こそお願いしたいほどだ」

そう答えた。

弦一郎は俺を力強く抱きしめる。

「蓮二、好きだ・・・」

「弦一郎・・・俺も好きだ・・・」

弦一郎を力強く抱きしめ返した。

そして、2人は唇を交わした。

お前だけ側にいてくれればいい。

それだけで・・・

そう改めて思った。







「ところで、蓮二、どんな悪夢を見たんだ?」

弦一郎が思い出したように聞いてきた。

「お前に彼女ができる悪夢だ」

その言葉に弦一郎は驚き言葉を詰まらせた。

どんな言葉を返していいのか分からなくて、まごまごしていた。

「弦一郎、所詮夢だ。そうだろう、弦一郎?」

くすっと笑みをこぼした。

「・・・あ、当たり前だ。俺にはお前しか・・・」

弦一郎は顔を真っ赤になっていた。

かわいい。と思ってしまう。

「弦一郎・・・お前と出会ったこと・・・嬉しく思う」

笑みを浮かべて、そんなことを言えば、弦一郎も笑顔を浮かべると。

「・・・俺もだ・・・」

と、返事を返してくれた。




そんな日常が好きだ。

好きな人に感謝を込めて、

『ありがとう』



『好き』

の気持ちを込めて、

一緒に歩いていきたい。



おわり